刑務所から出た女性たちの「家族」になる
居場所づくりに人生をかける理由とは
一般社団法人 生き直し代表理事 千葉龍一 女性出所者向け自立準備ホーム

「居場所さえあれば、人生はやり直せる」そう話すのは、女性出所者の支援に取り組む千葉龍一さん。
2018年に株式会社生き直しを立ち上げ、男性施設から始まった活動は、やがて女性専用の自立準備ホームへと広がりました。帰る場所がない。頼れる人もいない。そんな女性たちが、再び社会に踏み出すための“最初の一歩”を後押しする。衣食住の提供にとどまらず、福祉・医療・就労支援まで、あらゆる不安を一つひとつ受け止める体制がそこにはあります。自らも過去に大きな罪を背負い、人生を立て直してきた千葉さんだからこそ語れる言葉、向き合えるまなざしに強い熱意を感じました。(インタビュアー 倉又康充)

「居場所がない」が命取りになる。その前に・・・
組織立ち上げの経緯を教えてください
2018年、株式会社生き直しを立ち上げ、まずは男性の自立支援施設の運営を始めました。当時は女性施設を手がける予定はありませんでしたが、活動を続けるうちに「女性の施設をやらないのか」という声が関係者から多数寄せられるようになりました。
調査してみると、女性の自立準備ホームは全国的にも極端に少なく、東京都内でさえ40施設中わずか2カ所ほど。さらに、刑務所を出た女性たちは行き場を失い、売春や薬物依存、自殺といったリスクにさらされやすい現実も浮かび上がってきました。
社会復帰への第一歩を踏み出す前に「居場所がない」という理由で再び孤立してしまう。この理不尽さに胸を突れ、SNSで「女性施設をつくりたい」と発信しました。すると、知人の不動産業者が物件を紹介してくれ、女性施設の構想が一気に動き出しました。
しかし、立ち上げには資金が必要です。クラウドファンディングや寄付を募る中で直面したのは、「株式会社では寄付を集めにくい」という構造的な問題でした。困っている人を支援したくても、法人格がネックになる。そこで、女性施設の運営は新たに設立した一般社団法人で行うことに。現在は、男性寮を株式会社で、女性寮を一般社団法人で運営し、収益も明確に区分。女性施設の運営費は保護観察所からの委託金に加え、寄付金とクラウドファンディングでまかなわれています。

刑務所から出た女性たちの「新しいスタート」を支える
事業内容について教えてください
この法人が運営するのは、主に「女性出所者向けの自立準備ホーム」です。刑務所を出たあとに行き場のない女性たちを受け入れ、衣食住の提供をはじめ、福祉制度の申請同行、就職支援、医療やメンタルケアに至るまで、まるで家族のような丁寧なサポートを行っています。
滞在期間は最長で6か月。その間に生活を立て直し、自立への足がかりを掴んでもらうことを目指しています。生活保護の申請や通院の支援に加え、必要であれば衣類や下着など生活必需品も一式用意することもあります。
こうした支援活動の運営資金は、保護観察所からの委託金と一般からの寄付金で成り立っており、入居者からは一切費用を徴収していません。支援を受けるハードルを限りなく低くすることで、誰もが安心して一歩を踏み出せる環境を整えています。

小さな変化に気づける、寄り添いの支援体制
御社の強みはなんでしょうか
この施設の大きな特徴のひとつは、利用者との距離がとても近いことです。日々の様子をしっかり見守れる体制を整えているので、ほんの小さな変化にもすぐ気づくことができます。
たとえば、いつもと様子が違っていたり、帰ってくる時間が遅かったり。そういう些細な違和感が、大きな問題の前触れだったりするんですよね。早めに気づいて声をかけられる体制は本当に大事だと思っています。
女性寮の運営を任せているのは、施設の立ち上げ前からの知り合いで、元受刑者の女性です。出所後にホームレス生活も経験しながら、今では「自分と同じように不安を抱える女性たちの力になりたい」と、施設長として現場の最前線に立ってくれています。
やっぱり自分の経験があるからこそ、利用者の気持ちにも寄り添えるし、言葉にも説得力があるんですよね。信頼関係も築きやすいですし、本当に頼りにしています。
また、女性の支援は女性が担当する、という体制を徹底しているのも、私たちのこだわりのひとつです。
他の施設の方からよく聞くんですが、男性職員が女性を支援すると、頼られるうちに好意を持たれたり、精神的に依存されたりするケースもあるみたいで。うちではそういうことは起きていませんが、最初から女性同士のほうが安心して話せるっていうのは確かにあると思うんですよね。そういう“距離感”ってすごく大事なんです。

支援は「対等な関係」から生まれる
仕事をするうえで、大切にしていることは何ですか?
活動を続けるうえで、私が一番大切にしているのは、「上下関係をつくらないこと」です。
うちの施設では、私のことを“先生”と呼ぶのはNGにしています。必ず「千葉さん」と名前で呼んでもらうようにしていて、それには理由があります。“支援する側”と“される側”という関係性ができてしまうと、どうしても本音での相談がしづらくなってしまうからです。
支援の現場で本当に必要なのは、指導でも管理でもなく、信頼関係だと思っています。だからこそ、できる限り“家族のように”、フラットな関係で関わることを大切にしています。
こうした考えの背景には、自分自身の過去の経験があります。
私は20代の頃、交通事故を起こして、友人を亡くしてしまいました。逮捕され、執行猶予がつきましたが、「人を死なせた」という現実は今でも消えることはありません。深い罪悪感と、言葉にできない孤独のなかで、「自分はもう社会にいてはいけないんじゃないか」とさえ思っていました。
そんなとき、「お前は生きて償うしかない」と言ってくれた仲間がいたんです。その言葉に、私は救われました。
だからこそ今、過去を抱えた人と向き合うとき、裁くのではなく、まずは受け止めたいと思うんです。自分もまた、誰かに支えられて立ち直ることができた一人だから。
上下ではなく、横並びで。支援の現場に立つ者として、一人の人として向き合う姿勢を、これからも大事にしていきたいと思っています。

「経験者だからこそできる支援」を、もっと広げていきたい
今後の展望やビジョンについて教えてください。
これから先は、男性施設でも元受刑者の方に施設長を任せられるような体制にしていきたいと考えています。やっぱり、経験した人にしかわからない気持ちってあるんですよ。過去に罪を犯したからこそ見える景色や、伝えられる言葉の重みってあると思うんです。
支援の現場って、決して綺麗事だけではやっていけません。ときには裏切られることもあるし、想像以上に大変なことも多い。でも、当事者としてその道を歩いてきた人は、そうした現実も理解したうえで、「それでもやりたい」と思える覚悟と熱量を持っている。そういう人たちが現場に立つことには、大きな意味があると思っています。
私自身、支援を“仕事”としてではなく、“生きる意味”として向き合ってきました。同じように、過去に何かを抱えた人たちが、自分の経験を活かして人を支える側に回ってくれるような仕組みをつくりたい。それが、次の目標です。
少しずつでもいい。仲間を増やし、施設を増やして、救える人を一人でも多くしていきたい。「行き場がない」と感じている人が、全国どこにいても必ず受け入れてもらえるような社会を、現実のものにしたいんです。
誰かの「終わったはずの人生」を、「ここからもう一度やり直せる人生」に変える。そんな場所をひとつでも多くつくっていくこと。それが今の自分に与えられた使命だと思っています。
PROFILE

一般社団法人 生き直し代表理事 千葉龍一
2006年 | 創価大学卒 |
2009年 | 獨協大学ロースクール卒 |
2013年 | 公益社団法人日本駆け込み寺職員に |
2014年 | 一般社団法人再チャレンジ支援機構の出所者支援居酒屋プロジェクトの担当。 駆け込み餃子の立ち上げに関わる。約30名弱の出所者の受け入れも担当。 |
2017年 2月 | 千葉刑務所にて講話 |
2017年 9月 | 千葉刑務所にて講話 |
2017年 4月 | 厚生労働省にて講話 |
2018年 7月 | 自立準備ホーム生き直し開設 |
2019年 8月 | 生き直し女性寮開設 |
2020年 3月 | 生き直し男性寮二施設目開設 |
2020年 11月 | 自立準備ホーム制度10周年記念シンポジウムに登壇 |
2021年 1月 | 東京都主催の再犯防止に関する研修会に登壇 |
2021年 3月 | 生き直し男性寮三施設目開設 |
2021年 10月 | NHK「SEEDなやみのタネ」出演 |
2021年 12月 | 岡山少年院にて講演 |
2022年 3月 | 日本自立準備ホーム協議会副理事就任 |
2022年 10月 | 「歌舞伎町で再犯防止について考えてみた」共著 |
2022年 11月 | 練馬区保護司会にて講演 |
2022年 12月 | 保護司就任 |
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