「生酒の量り売り」と「手書きラベル」
夫婦でつくる“世界でひとつだけのギフト”
リカーショップおきつ
興津義久・興津朝子
酒店
数年前の私の出来事。父の日を目前に、ネット通販で「メッセージ付き日本酒」というのを見かけました。銘柄は勘で、つけられるメッセージも複数のテンプレートから無難なものをなんとなく選び、注文。便利な世の中になったなぁなんて思っていたら、後日、父がそのメッセージを大切にとっているという話を母から聞き、それならばもっとちゃんとしたものを送れば良かった…、としばらく後悔していました。静岡市清水区、富士山の景勝地「三保の松原」近くで100年以上の歴史ある「リカーショップおきつ」は、今では珍しいお酒の量り売りを行うこだわりの酒屋さん。しかも贈答品には奥様が筆をとり、ひとつひとつ手書きで作るラベルを付けることもできます。個性たっぷりで、気持ちがストレートに伝わる仕上がりは、手作業による“世界でひとつだけのギフト”。また父にお酒を贈るときには、こちらにお願いしたいな、と思いながら、ご夫婦二人三脚の仕事ぶりとこだわりを聞きました。(インタビュアー 山根聖美)
店先で味わえる「生酒の醍醐味」
義久さん「生酒は、長野県上田市の蔵元から仕入れています。私自身も蔵に行って酒造りの作業をさせてもらい、蔵元と一緒に考案した当店オリジナルの日本酒、“酒楽(さかほがい)”を提供しています。味はお米のうま味をダイレクトに感じられる、生酒ならではの“うま口”タイプです。そのほか、店内には焼酎の貯蔵カメが5つ、生ビールサーバーが3種類、クラフトビールも4種類量り売りで提供しています。そのほか、清水区には3軒の蔵元がありますので、地元の地酒や、海外の珍しいお酒なども豊富にあります。よく広告で見るような有名なお酒の方が少ないですね。お店が東名高速・清水ICから近いということもあり、うちでしか買えないお酒を求めて県外から足を運んでくださる常連さんもいらっしゃいます」
踊るような筆で気持ちを伝える手書きラベル
朝子さん「2002年に私たち夫婦が結婚式を挙げたとき、引き出物として、お店のお酒に手書きのラベルを貼ったものを配ったんです。すると参列してくれた方や式場のスタッフさんまで、すごく評判が良くて。こんなに褒めてもらえるなら、お客様にも喜んでもらえるかもしれないと思い、手書きラベルのサービスを始めました。風合いの良さで選んだ福井県の越前和紙を取り寄せ、店内の作業スペースで筆と墨を使って書いています。内容はスペースに入れば、お客様のお好きな内容でOK。大きく伝えたいことを入れたり、お手紙風にしたり、ちょっとした絵を加えたり、写真を入れることもできます。店内にはたくさんのサンプルがありますが、ネット注文の場合はお店のinstagramにラベルのサンプルを投稿していますので、参考にしていただくこともできます。父の日、母の日などはもちろん、誕生日、結婚式(引き出物や両親への贈り物)、卒業式(先生への感謝のギフト)、大学生の部活動やサークルの記念品など、多岐に渡ってご利用いただいています。お子様向けに、ワイナリーから取り寄せている天然果汁のグレープジュースもありますので、七五三のお祝いなどにも使っていただいています。一本からご注文可能です」
蔵元に修行に行き、自社ブランドを開発
義久さん「大量販売ができない小さなお店ですから、お客様に喜んでいただくために、自分たちで商品開発をして付加価値をつけなくてはと思っています。生酒を飲んだお客様からは、香り・味ともにこれまで晩酌で飲んでいたお酒とは全然違う、日本酒は苦手だったけどこれなら飲める、といった声もたくさんいただきます。また、カメに入っている焼酎は瓶のものより風味が柔らかく、美味しいんです。ぜひ一度味わってみていただきたいです」
朝子さん「主人は、お店の正月休みにも酒蔵にいって泊まり込みで手伝うような人で、お酒への情熱は普通の酒屋さんをかなり超えていると思います(笑)。私は昔から手作業が好きだったので、字や絵を描くことも好きでしたし、調理師免許も持っていましたから、立ち飲み屋ではちょっとしたおつまみを作ったりもしています。お客様とのおしゃべりもとても楽しいですね」
酒造りにかける情熱を伝えたい
義久さん「私の使命は、良い酒をたくさんの方に飲んでいただくということと、蔵元、杜氏、蔵人といった酒造りに関わる人たちの情熱を、これからもお客さんに伝えていくということ。一時はコロナ禍で自粛生活が広がり、お酒を飲んだり贈ったりすることも控えられるようなムードでしたが、お店もまた賑わいが戻ってきて、対面でお客様から感想をもらえることがとても嬉しいですね。ネット注文は顔が見えないサービスですが、それでもご購入後に“ギフトとして送ったらすごく喜んでもらえた”“とても美味しかった”と言ったお声をわざわざメールなどでいただけることもあり、大きなやりがいです。これまで通り、美味しいお酒をできるかぎり良い状態でお客様に飲んでいただけるように頑張っていきます」
朝子さん「お酒は人と人とを繋ぎ、ご縁を繋ぐアイテムだと思っています。世界でひとつだけでの手書きラベルのお酒のギフトを贈ることで、これまで途切れていた縁がまた繋がった、なんてご報告もありました。そんな笑顔が生まれ、仲が深まるきっかけとなる仕事ができることを幸せだと思って、これからもご縁を繋いでいきたいと思っています」
PROFILE
リカーショップおきつ興津義久・興津朝子
【住所】
〒424-0038 静岡県静岡市清水区西久保1丁目6番19号
【TEL】
054-366-4363
【営業時間】
9:00~21:00
【定休日】
日曜日
【駐車場】
5台
【たちのみOKITSU】
水・木・金・土・祝日 17:00〜21:00 リカーショップおきつ内で営業
【URL】
https://www.okitsuya.com/
手書きラベルが掲載されているinstagramはこちら
2024年5月14日 公開
貯蔵タンクやカメから注がれる量り売り
義久さん「このお店は私で3代目。祖父の代は昔ながらの酒の量り売りをしていましたが、父の代で瓶詰めした酒を飲食店や業務店に配達する業態に変えました。私が継ぎ、日本酒をもっと深めようと様々な酒蔵を巡り歩いた結果、再び量り売りにたどり着いたんです。熱処理していない“生酒”は、普通は蔵元まで行かないと飲むことができませんが、徹底した温度管理(0度)と品質管理ができる日本酒専用の貯蔵タンクがあれば、酒蔵でなくても生酒を提供できると知り、店内に設置しました。今はその場で注文を受けてから瓶詰めをする生酒の量り売りをしています。ほかにも焼酎貯蔵カメや各種サーバーもあり、注ぎたてのフレッシュなお酒の味を楽しんでもらおうと、夜は曜日限定で立ち飲み屋も始めました。地元の方を中心に、おかげさまで賑わっています」